SPECIAL INTERVIEW

MIHO BROWN

ダンサー

―ステージをきらびやかにすることもあれば、妖しいムードに一変させることもある。ある曲のイントロダクションとして登場することもあれば、場内を一体化させる魔法のような力を発揮することもある。ライブにおけるダンサーとは、ショー的要素をアップさせる重要な演出要員であり、いくつもの役割を担うキーパーソンでもあるわけだが、では、ダンサー、またコリオグラファーとして平井堅のライブに長く、深く携わるMIHO BROWN氏は、平井堅を、平井堅のライブをどう見ているのだろうか。まずは、二人が出会うきっかけから話してもらった。
「私はいろいろなジャンルの音楽を聴きますが、とくにブラックミュージックが大好きで、ブラックミュージックを愛する人達と一緒に生きてきたようなところがあったんです。ただ、そういう世界にも、日本人離れしたアーティストが出てきた、みたいな感じで、平井堅というアーティストの情報は自然と入ってきていました。それで、その楽曲『楽園』(2000年発表作)を聴いたらとろけるような歌声で、どんな人なのかと思って写真を見たら高身長でイケメン! その当時の堅さんはドレッドヘアだったので、レニー・クラヴィッツみたいだって思いました。」
―2000年までは主にBrown Sugarというヒップホップのダンスグループのメンバーとして活動していたBROWN氏だったが、まったくフィールドが異なる平井堅となぜ接点を持つことになったのか。
「ニューヨークを旅行していたとき、日本から電話があったんです。ちょっとBROWN、こんなアーティストさんがいらっしゃって、今度のライブのダンサーを選考したいということなので書類とダンスの映像を資料として提出してくれないか、って。」
―電話をかけてきたのはコリオグラファーの竹内亜矢子氏。2003年4月から2ヵ月間にわたって行われた「LIVE TOUR 2003『LIFE is...』」におけるダンサーの振り付けを担当したのが竹内氏で、このツアーは、平井堅にとって初めての大規模な全国アリーナツアーであったと同時に、初めてダンサーを起用したライブでもあった。
「竹内さんはアメリカのショウビズ界でダンサーとして活動していた方で、私、竹内さんが日本へ帰ってきたときのワークショップに参加したことがあったんです。そのとき、あなたのダンス良いね、みたいな感じで声をかけてもらい、連絡先を交換しました。私はアメリカのショウビズ界にとても憧れていたので、この日本でレニー・クラヴィッツみたいなイケメンとお仕事できるかもしれないって、すごくドキドキしたことを憶えています(笑)」
―竹内氏がコリオグラファーを務めるツアーのためのダンサーを募り、その選考にパスしたダンサーのひとりがBROWN氏だった、というわけである。
「送った映像を堅さんも見て、堅さんご本人から選んでいただいたという話をあとから聞いたときは、“この私とダンスキャラを!? ご本人様が選んでくれた?!” と、とても信じられない気持ちでしたが、嬉し過ぎて毎日ニヤニヤしていました。」
―嬉しいことは続いた。
「ツアーのためのダンサーのリハーサルは、まずダンサーだけで、別のスタジオでやっていたんですね。ご本人やバンドのメンバーに会うのは大きなスタジオ……全体でリハーサルをするときがほとんどなんですけど、堅さん、ダンサーだけのリハーサルスタジオへわざわざ挨拶しに来てくれたんです。堅さんが来るって知ったときは、“この段階で来るの? もう会えるの? 身長高いみたいだけどどれくらい高いの?” とか言いながら待ってて、いよいよご本人が現れたら、ダンサーみんなで“うわーっ!”ですよ。帰られたあとは、“背が高い! スタイル抜群! 日本人じゃないみたい! 目の彫りが深過ぎる! レニー・クラヴィッツよりカッコイイ!”とか言って(笑)。堅さんは人の目をしっかりと見て話す方なんですけど、そのときの私は恥ずかしくなり過ぎてぜんぜん見ることができなくて、とにかく脇汗半端なくやばいテンションでした(笑)。でも、冗談も小出しにされながら、初対面から気さくに話してもらえたので、とても嬉しかったです。」
―嬉しいことはそのあとも続いた。
「規模の大きいツアーにダンサーで参加したのはこれが初めてのことでしたし、堅さんは物腰の柔らかい素敵な方で、音楽も素敵な曲ばかりで、そして大好きなコリオグラファーの振り付けで踊ることができて、なにもかもがありがたかったですね。とくに、堅さんとの一対一のシーンを作ってくださったのは(アメリカで活動していた)竹内さんらしいなと思いました。と言うのは、今では日本でも当たり前のことにはなりましたけど、メインのアーティストを煽るだけでなく、曲が持つイメージに対する対象人物として……たとえば恋愛の曲だったらその恋人の役になるといった関わり方を(当時の)アメリカのバックダンサーはしていたからなんです。いつもダンサー全員でべったり踊っていたわけではなかったんです。そういう、ライブのシーンのひとコマに自分がなれたのはダンサーとして光栄なことでしたし、だからそれだけでも、“やったー!”と大喜びできたツアーでもありました。」
―以降もBROWN氏はダンサーとして平井堅のステージを(ときにテレビ番組出演時も)華やかに演出していくのだが、2011年、9月から2ヵ月強にわたって行われた全国ホールツアー「KEN HIRAI Live Tour 2011『JAPANESE SINGER』」からはコリオグラファーも兼任するようになる。
「それからは堅さんと直接話す機会、細かいやりとりをする機会がものすごく増えました。とにかくダンスと振り付けを最強にしたく、ワクワクしながらも責任重大! 初めの頃は、この曲にはどんなダンスが合うのか、それは衣装によっても変わってくるし、イメージを早く固めて提案したかったので、“ああかな、こうかな、でもここはもう少しこっちのほうが良く見えるかも!”って、ひとりで悩み始めてなかなか完成しないこともあったんですが、それを見て堅さんは、”BROWN悩み過ぎ! 大丈夫だよ”とか、“ちょっと一回落ち着こうか”とか、私の不安もどんな意見も必ず受け止めてくれて、その上で、“こうしてみるのも良いかもしれないね”みたいに助言してくれて、それでいつもしっくり行くんです。身振り手振りのビデオレターをいただいたこともありますし、“ここはお客さんも真似できるようキャッチーに、シンプルに”とか、“これやってみたい!”とか、堅さんのアイデアはいつも、ドセン(ど真ん中を意味する業界用語)で流石です。」
―コリオグラファーとしてのBROWN氏が平井堅のライブにおいてもっとも留意していることはなんだろうか。
「堅さんの楽曲は曲調が、静・動・明・暗に限らず、とんでもないパッションを放っているので、振り付けのとき、すでに心とお尻に火が点いて、気がついたら踊り出していることもあります。直感も大切に、純粋に歌の力に身も心も委ねて納得いくまで踊り狂って、それでもまだ踊っていたいと思える振りやグルーヴを記憶してダンスの演出を固めています。歌の世界観を壊さないように、それから、お客さんに堅さんの歌を視覚的にも堪能してもらえるように、物足りないとかがっかりされないように、それらをダンスの役割で全うすることが私たちにとっての平井堅のライブにおけるなによりも大事ことではないでしょうか。」
―BROWN氏は、平井堅の作品を吟味することで自身の変化に気づき、本人と多くの言葉を直接交わすことで平井堅の「あること」にあらためて気づくことになる。
「私の音楽の楽しみ方や日常は、どちらかと言うとパーティーピープルで、踊ることがなにより好きで直感的な人間だったんですけど、平井堅というアーティストの作品に触れたことで歌の聴き方、楽しみ方が大きく変わりました。そういう感じ方もあるのかと驚いたり、新鮮に思ったり、その知らなかった世界に自分を置いて考えてもいなかったことを考えてみたり、堅さんと同じ感じ方をしているのにそのことについて私はそれまで見て見ぬふりをしてきたことに気付かされたり、“私にもそういう思いがあった! わかる! 忘れていた!”ということを堅さんは見事に歌うので、複雑かつ様々な人の感情をよくそんなふうに表現できるなあって。最近、街で堅さんのある歌をふと耳にして、人の心の闇や他人には言えないような臆病なこともソフトに代弁してくれるなあって、えらく感動したら涙が出てきちゃって。堅さんは人に対する思いや愛情をいろーんな言葉で包み込む……それは『POP STAR』で歌っている“I wanna be a pop star”なんですよ。なんて優しい人なんだろうと。」
―これまでにBROWN氏が平井堅に言われた言葉でもっとも嬉しかったのは、「灰になるまで踊れ」だと言う。
「年を取ったら、おばあちゃんになったら、みんなの前では踊れなくなってしまうのかもしれないけど、私は踊っていたいという気持ちをいまだに強く、密かに持っているので、堅さんから“灰になるまで踊れ”と言われたのはほんとうに嬉しかったですし、そういう表現をしたのはさすが平井堅だなって思いました。だから私も、堅さんには灰になるまで歌っていただきたいと思っていますし、それにお付き合いできるダンスをすることが私の人生の夢ということになるのかもしれないですね。」
―最後に、コリオグラファーでありダンサーであるBROWN氏に、どうしても訊いておきたいことがあった。ライブで平井堅がダンサーとしてパフォーマンスすることがときにあるのだが、はたして、平井堅のダンスのクオリティはどうなのか。
「うまいです、とってもグルーヴィーでセクシーです! どこで習得したのかと思うくらいさらっと踊るステップは見事にキマってますし、高身長でからだの線がキレイなのでポーズなんかもバシっとキマるんです。曲が持つパッションだってちゃんと伝わってくる。ツアーの打ち上げでダンス大会になることもあって、堅さん、ノリノリで踊りますよ(笑)。純粋に、ダンスが好きなんだと思います。ツアー中のダンサーリハーサルのときは、私やダンサーの振り、フリースタイルを真似して踊り始めることもあるんですけど、特徴を掴むのがうまいんですよ。とくにノリはダンサー顔負けの、抜群のセンス。ノリ、グルーヴは天才的だと思います!」

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