SPECIAL INTERVIEW

KAN

シンガーソングライター

―1995年のデビュー以来、平井堅は数多くの作品を発表し、シンガーとして、ソングライターとして数多くの人たちを楽しませ続けている一方、自身も誰もと同じ一人のリスナーとして、誰かのファンとして音楽を楽しみ続けている。そしてときに、平井堅に限らずアーティストはその両方がシンクロする機会に恵まれることもあって、そこで今回のインタビュイーであるKAN氏。平井堅は学生時代からこの方の熱烈なファンであるのだが、ふたりの出会いはまず1998年に、間接的に始まった。
「『Love Love Love』(1998年5月発表作)……僕は『ブラブラブラ』って言ってるんですけど(笑)、この曲が出た頃、堅さんがラジオのレギュラー(『Music Voice~聞いてもらってすいません!~』)を持っていた福岡のCROSS FMへプロモーションに行ったんですね。そしたらディレクターが、“堅さんがKANさんのファンなので、本人に内緒でコメントをいただけませんか”と言うので、コメントを録って、それを堅さんの番組で流してもらったことがあったんです。それまではなんとなく存在は知ってましたけど、『Love Love Love』で初めてちゃんと堅さんを聴いて、すごいソウルフルでカッコいい曲だなと思いました。」
―翌年、二人は直接会うことになるが、ほんのちょっとだけ会った、という表現のほうが正しいかもしれない。
「僕のライブの終演後、CLUB CITTA’(神奈川県川崎市)でのことですね。たぶん、1999年の12月1日だったと思います。楽屋が狭かったので観に来てくださった関係者の方々が廊下にぎゅうぎゅうな状態で並んでいて、その奥のほう、かなり距離があったんですけど、頭ひとつ抜けた人がいて(笑)、そっから挨拶してくれたんです。堅さんが観に来くることはその日に聞いていて、でも、ゆっくり話す時間はなかったですね。堅さんがその後も僕のライブに来ていたことはあとから知りましたけど。」
―CLUB CITTA’のバックステージから二人が「きちっと」会うまでには時間を要したということだが、再会のきっかけはJ-WAVE。2008年の開局20周年企画の一つとしてアニバーサリーソングを制作することになった平井堅は、アーティストとしての自分と受け身として音楽を楽しむ立場をシンクロさせた。KAN氏に作詞作曲を依頼したのである。
「2007年の冬のことで、KANさんの作りたいように、KANさんらしい曲をお願いします、KANさんに全部お任せします、ということだったと思います。きちっとお会いしたのはその打ち合わせのときで、その日、直後に、飲みに行ったんですけど、堅さん、そんなに心を開いてくれなくて(笑)、“KANさんに曲を作ってもらえるのは嬉しいです”みたいなことばかり言ってて……シャイなんでしょうね。と言っても、今は全開ですけど(笑)」
―今となってはプライベートな付き合いもある二人だが、学生時代からのファンであり、同じアーティストとしてリスペクトする先輩と初めて酒を酌み交わすとなれば、KAN氏に「きちっと」会った日の平井堅の緊張は当然だろうと言えるもので、だからこそKAN氏へのオファー成立はイコール、夢のコラボレーション。そこで生まれた『Twenty!Twenty!Twenty!』は、2008年3月発表のアルバム『FAKIN’ POP』に収録されている。
「楽しいディスコとしっとりしたバラード、二つデモを作りまして、楽しいディスコが良いんじゃないかということになり、そこで、プロデューサーを立てるアイデアもあったんですが、作詞作曲だけでなく、アレンジもなにもかも全部自分でやろうと決めまして、もちろんレコーディングも仕切らせていただきました。堅さんが歌うことをイメージして作っていますから、歌入れも楽しいわけです。“そうそう!”とか“いいねいいね!”とか言いながら、はい、とても楽しかったですね。」
―『Twenty!Twenty!Twenty!』のレコーディング中、KAN氏は平井堅に「どS」と言われたという。
「曲の最後のほうでAの音……ラの音があるんですね。“燃えてメラメラ~”(と、歌いながら説明をする)のところがその音、この曲のいちばん高い音なんですけど、堅さんに裏声じゃなくて表で歌ってほしいとお願いしたんです。仮にうまくできなかったとしても、デジタルの技術で修正はできちゃうんですが、それはやめようというルールにしたんですよ。堅さん、“マジですか!?”とは言いつつ、歌えば歌うほど良くなるし、自分の頭でイメージしていたものにどんどん近づいていったわけですから、そりゃあ楽しいレコーディングでしたよ。」
―二人のレコーディングはその後、もう一度あった。2017年7月発表のベストアルバム『Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2』のスペシャルディスク『歌バカだけに。』は、平井堅が敬愛するアーティスト10組が平井堅のために書き下ろした楽曲10曲を収録したものだが、その中の1曲がKAN氏による『歌』。こちらも作詞、作曲、編曲など、すべてKAN氏によるプロデュース作である。
「こういう企画があります、ぜひKANさんにお願いします、とお話をいただいて、もちろん喜んで、ということだったんですけど、その時点で『Twenty!Twenty!Twenty!』のときに作っていたあれをちゃんと形にしたいと思ったんですよね。」
―「あれ」とは、「楽しいディスコとしっとりしたバラード」の「しっとりしたバラード」のことで、しかし同時に、KAN氏にはもう一つのプランもあった。
「僕は堅さんの『君の好きなとこ』(2007年2月発表作)がすごく好きで、ああいう、やさしいメロディで、可愛くて切なくて、思わずおセンチになってしまうようなどポップスを自分でも作りたいと思っているんですよ。だからそれに挑戦したんですけど、いくらやっても『君の好きなとこ』にはぜんぜん及ばなくて(笑)、しっとりしたバラードのほうは歌詞がなかったので、そっちはそっちで歌詞を考えていたんですが、だんだん締め切りの時間が迫ってきたこともあって、2007年に作曲したバラードのほうを完成させたというわけです。2016年のことで、作曲した2007年から数年のあいだに僕の人生で起きたとても、とてもとても悲しい出来事をすべて堅さんに歌ってもらうことで昇華させようという思いで歌詞を書いたんです。」
―なんともシリアス。しかし『歌』のデモはそうではなかったようだ。
「自分が歌ったデモを堅さんに送ったら、“僕に寄せすぎてません?”と反応があったんですけど、そりゃそうだよと。だって平井堅が歌うってことで作っているわけですから、デモを作っているときは一所懸命モノマネをして(と、平井堅のモノマネで歌い始める)、歌入れのときは“もっと平井堅、もっと平井堅で!”という指示をして(笑)。堅さんは“わかりました、やってみます”と言ってましたけど、デモがモノマネだったので、そのまま歌ったらちょっと負けた感じになるのがイヤだったのかもしれないですね(笑)」
―同じシンガーとして、KAN氏は平井堅をどう見ているのだろうか。
「それは、もう、すごいでしょ! 魅力的な声ですし、もちろん詞も曲も素晴らしいものはいっぱいありますけど、ライブを観ていていつも思うんです、すごく謙虚だなって。日本を代表する素晴らしいシンガーの一人なのに、僕はまだまだぜんぜん下手、なぜもっとうまく表現できないんだろう、ということをいつも考えているシンガーなんですよ。だからいつもライブではワンフレーズ、ワンフレーズを、本当に丁寧に歌おうとしていて、そこが響くんだと思います、ライブを観ているみなさんには。僕は歌いながら次の段取りのことを考えてますからね。僕のライブは段取りだらけなので(笑)」
―では、同じソングライターとしてはどうだろうか。
「色んなタイプの曲を書きますよね。幅広い。それでいて、どういうものであってもメロディもきちんと作るので、たとえば、すごくソウルなものでもポップソウルとして成立させられるのは素晴らしいと思います。それと『告白』は昭和歌謡のテイストがあって、でも昭和歌謡になっているわけではなくて、僕はああいう曲、作れないんですよね。だから、“へえ!”と思いながら聴いてましたけどね。」
―もう一つ、同じパフォーマーとしてはどうだろうか。
「あんまり踊らないけど、ちゃんと踊れるじゃないですか。あんまり踊らないのは、歌に影響しないようにということだと思うんですけど、ちゃんと踊れてますよね。そういうセンス、すごくあると思います。なんたって背が高いし、真剣に取り組んだら良いダンサーになれると思うので、そこはもうちょっと頑張ってほしいですね(笑)」
―ライブでの共演も何度かあった。たとえばKAN氏が2010年に各地で展開した「芸能生活23周年記念逆特別 BAND LIVE TOUR 2010【ルックスだけでひっぱって】」、平井堅は3月20日の大阪公演と3月22日の神戸公演にゲスト出演した。
「シークレットではあったんですけど、1曲だけパッと出て来て、それで終わりにして、お客さんからしたらあれはなんだったんだろう、幻だったのか、みたいな見せ方もあるわけですけど、僕は誰かのライブに呼ばれたらいっぱい出たいタイプなんですよね(笑)。それに、せっかく来ていただくわけですからインパクトあるものにしたいですし、使い切りたいわけです(笑)」
―そこでまず歌ったのは、やはりあの曲、『Twenty!Twenty!Twenty!』。
「僕がピアノでイントロを弾き始めて、そのあとすぐ歌うフリをしたんですけど、じつはピアノの後ろで、お客さんからは見えないよう床に這いつくばった堅さんが歌っていて、そして、バーン!とピアノの上に、登場! その他にも2曲歌ってもらいましたし、あと、全曲つなげ(ライブの最後、その日に演奏した楽曲をすべて繋ぎ合わせ、ダイジェストとしてあらためて短時間で披露するKAN氏のライブの名物企画)のときにも堅さんには登場してもらいました(笑)」
―楽しい二人の共演。ひょっとしたら今後もなにかあるかもしれない。いや、3度目のレコーディングが実はあったかもしれないのだ。2020年11月発表のKAN氏のアルバム『23歳』のラストを飾る美しいバラード『エキストラ』がそれである。
「実はこれ、初めて話しますが・・・。堅さんと秦(基博)くんと飲んでいたことがあって、そのカラオケスナックのカウンターで女の人がものすごく切ない曲を歌っていたんですよ。そこで、僕も女の人に歌ってもらえる切ない曲を作りたいと思って、それが『エキストラ』なんですが、このデモができあがったあと、堅さんに“歌ってみない?”って送ったんです。そしたら堅さん、“すごく良い曲で歌詞もすごいし、でも僕がしれっと歌うより、作った人が歌うほうが絶対に良いと思う”って。“作り手が歌う絶対的なすごさがこの曲にはあるからKANさんが歌うべきです”って返事が来たので自分で歌うことになったわけですけど、いつか堅さんには『Ken’s Bar』で歌ってほしいですね。『エキストラ』は堅さんにカバーしてほしい曲のひとつです。」

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